勤務医の残業代請求

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、勤務医師の方、勤務歯科医師の方、看護師、歯科衛生士、臨床検査技師、理学療法士、レントゲン技師医師や歯科医師の方など医療従事者の方の残業代請求について、請求を求めている方の弁護活動に力を入れています。

夜間や休日のオンコール対応、そして「自己研鑽時間」など医師は残業代問題が多い職業の一つです。医師は、これまで一般のサラリーマンとは異なり、労働基準法による時間外労働の上限規制が適用されていませんでした。

令和6(2024)年4月1日から、医師にも時間外の上限規制が設けられます。もっとも、今後は、業務の密度などが問題とされていくものと考えられます。

最近は、病棟勤務の場合は異なっているかもしれませんが、外来や執刀が重なり、また、医療は、今や珍しくなったともいえる「24時間・365日態勢」の業界です。

よく聴かれるのは、外来や診察に時間をとられ、カルテや診断書の記入を夜にまとめて行わざるを得ない例などがあることがいわれています。

医師の働き方改革というのが、令和6年からスタートすることになりました。

一般的なサラリーマン動揺、原則的な残業時間の上限は月45時間、年360時間とされています。もっとも、サラリーマンとは異なり、月45時間につき月6回のキャップがあるという制限はありません。

しかし、「例外的措置」がもうけられているため、この「例外的措置」の運用を注意深く見ていく必要があると思います。

医師に対する残業の行政法規からの規制は、A水準、B水準、C水準とレベル分けされています。
A水準が一般的であり、月100時間未満で年間960時間というものです。
B基準やC基準は、月100時間未満は同じですが、年間1860時間以下ということになっています。

B水準は地域医療暫定特例水準、C水準は高度技能の習得や臨床研修に用いられている病院が該当するものです。しかし、B水準及びC水準の適用を希望する医療機関は、都道府県に対する申出が必要になります。

医師の給与体系には、固定残業代制という壁や年棒制の壁があるため、一般企業とは異なり、残業代請求のハードルが高いと考えても無理からぬ事情もあります。

しかし、原則は、労働契約で決められた業務時間を超える部分は、医師であったとしても残業代の請求が可能です。

固定残業代が支給されている場合は、既に事前に織り込み済みになっている場合もあります。また、年棒制の場合も、残業代が明確に含まれているといえるかがポイントとなるでしょう。

また、医師の残業代の場合、宿直が問題となります。これは確かに地方の病院の場合、「夜に一件救急車が来ただけ」「看護師からの熱発の対応依頼に一件対応しただけ」で基本的に寝ていたというケースは実情としてあります。他方、労働密度が高い場合について、宿直に残業代が出ないと即断するのは相当ではありません。

多くの病院では、実際に働いていても、監視または断続的労働に該当し、かつ、労働基準監督署長から許可を受けている場合は、労働時間に含まれないものとされます。

したがって、宿直中は、割増賃金はもちろん通常の賃金も支払われません。それゆえ、受け取ることができるのは宿直手当のみということになりますが、それも1日の平均賃金の3分の1を越えなければなりません。

また、果たして、夜通し救急車がやってきたりして、手空き時間が全くないような場合に、「監視または断続的労働に該当する」とはいえない場合もあるかもしれません。

Q 固定残業代制の問題点を教えてください。

残業代を一般的方法で支払うのではなく、例えば1か月10万円というような形で支払う方法をいいます。このような「固定残業代制」は、採用する企業が広がりつつあり、「低額働かせ放題」ともいわれています。固定残業代には、基本給の中に「残業代」が含まれているという「基本給組み込み型」と、その名のとおり「固定残業代手当」として支払われる「手当型」があります。

もっとも、固定残業代の場合、それが残業代であるのか、様々な名称であるため曖昧であることが少なくありません。そして、結局、計算しなおすと不足があるにもかかわらず、残業代を支払わないという残業代不払いの隠れ蓑としての利用実態も少なくありません。

まずは、①固定残業代制度を採用することが合意されているか、②合意があるとして、通常労働部分と超過勤務部分が峻別することができるか(判別可能性もしくは明確区分説)、③固定残業代とされるものが、時間外労働の対価であること、④固定残業代をもらうことで細かい清算はしないということが公序良俗に直ちに反するわけではない、⑤固定残業代でカバーする射程距離が及ぶ労働時間が長すぎる場合は、固定残業代ではカバーされない(公序良俗違反である)というように整理されるものと思います。

Q 判別可能性の要件について教えてください。

労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないかを検討することになる。そして、その検討の前提として、通常の労働時間の賃金に当たる部分とを判別することができることが必要とされています(最判平成6年6月13日労判653号12頁、最判平成24年3月8日労判1060号5頁、最判平成29年2月28日労判1152号5頁も参照)。

判別できる場合もあれば判別できない場合もあり、判別できなければ残業代は未払いというしかありません。例えば、金額も、時間数を明らかにしているかがポイントになります。ですから、単に、基本給には、割増賃金(残業代)が含まれているといった合意を仮にしたとしても、基本給のうちどの部分が「通常の労働時間の賃金」に当たり、どの部分が「割増賃金」に当たるかが判別不能な場合は、残業代を支払っていることにはなりません。

このように、判別ができない場合、労働者の側から見ると、判別できない以上、全額を「基本給全体が通常の労働時間の賃金に当たることになり、それを計算の基礎とした残業代請求が可能になる」と解されています(東京高判平成30年2月22日労判1181号11頁)。

上記高裁は、最高裁で破棄された判決の差し戻し審でしたが、当初の交際は、「当該医師は、労務の提供について自らの裁量で律することができ、給与額が相当高額であったこと等から、月額給与のうち割増賃金に当たる部分を判別することができないからといって不都合なことはない」と判決をしたところ、最判平成29年7月7日労判1168号49頁に破棄されたものです。

なお、現在、残業代とされる金額、時間のいずれかのみが明示されているにとどまる場合に判別可能性があるかは、通説的見解がない状況にあるので、一度、弁護士に相談されると良いでしょう。

Q 年棒制を採用されている場合、どのような場合に残業代が発生しますか。

まず、年棒制それ自体は、残業代の支払いを免除する制度ではありません。したがって、通常の賃金の部分と残業代の部分を明確に区別できるようにしておく必要がある、つまり判別可能性が必要であるというのは、固定残業代と一緒といえます。

したがって、確かに、年棒制の中に残業代が含まれることもありますが、通常の労働時間の賃金と判別でき、かつ、支払金額が労基法37条で定められた割増賃金を下回っていないことが必要となります。よって、通常の労働時間と判別できず、労基法37条の算定を下回っている場合は残業代が請求できます。

この点、年棒制を採用すれば、機械的に残業代を抑制できるということはありません。

年棒制の場合、年棒14分の1の金額を基本給として毎月1回の定期賃金としての給与(年12回)と、年2回の賞与として支払っているものと考えられています。

この場合、割増賃金の基礎となるものとしては、年棒の14分の1が、月によって定められた賃金(労基法施行規則19条1項4号)に当たるというA説、年棒全体を、月週以外の一定の期間によって定められた賃金(19条1項5号)として賞与も含めた金額を年間の総労働時間で除するというB説がありますが、実務は後者によっています。

例えば、産業医のケースで、年棒1830万円のケースで、労働者の残業代を算定するに当たり、当該年棒額を1年間の所定労働日数と1日の法定労働時間で除して算出される取扱いと思われます。

1.医師や歯科医師の残業代請求の有効な証拠は何ですか?

医師や歯科医師であっても、基本的には、サラリーマンと一緒であり、残業代の請求が認められています。
しかし、証拠に乏しい場合は、労働審判にしても労働訴訟にしても、残業代請求が立証できず敗訴してしまうこともあります。

まずは、タイムカードのコピーや写メを撮影しておくことは大事かもしれません。また、残業代の出勤アプリに入力しておくことも有力です。一斉打刻などの不当な運用がなされていない限り、基本的な証拠のコアになるものと考えて良いと思います。

勤怠管理システムを導入している場合については、データで出退勤を管理しているので、こちらも残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。したがって、可能な限りデータのコピーや写メを撮影しておきましょう。

勤務医の場合、患者の症状悪化による緊急対応や診療時間外の患者対応、勤務時間内で対応しきれない手術、手術の準備のための論文や文献の調査・読み込みといったことで生じる労働時間もあります。これらは、日々の記録を取っておくと良いでしょう。iPhoneのメモや都度メールを自分宛に送付する習慣をつけておくなどがあり得るかと思います。

勤務医の場合、手術に必要な文献の読み込みや調査、深夜にまとめて行うカルテの書込みは「自己研鑽時間」ではありません。また、医師は、「前残業」も少なくないと思いますので、医局や待機場所に入った時点で記録をとっておくのもよいでしょう。

個人情報保護法の観点から慎重な取り扱いが必要ですが、医師の場合、電子カルテに記載している経過日時の記載から労働時間を割り出せる場合もありますが、残業代紛争で必ずしもそれらの記録にアクセスできるとは限らないので、日記や携帯のiPhoneなのでメモを取っておく方が良いでしょう。最近は音声入力機能がありますので、自分が理解できれば、とりあえず音声で入力しておくということもあり得ると思われます。

これらカルテなどに正式にアクセスしたい場合は、弁護士を通じる必要があると思いますが、ある程度自分でもプライベートな労働時間のメモを残しておいた方が良いでしょう。

2.医師の残業代が支払われないからくりと法的に戦う

管理者側からみますと、医師を「定額働かせ放題」にするには、「みなし残業代」ないし「固定残業代」、「年棒制」、「管理職」、「当直」だからというのが魔法の言葉とされています。
しかし、医師であれば、「医長」や、看護師であれば「主任」では管理監督者には当たらず「管理職」だから残業代はなしということは法的に正当とはいえません。

当直やオンコールはよく問題になりますが、いずれも労働時間には該当しにくいと判断されていますが、委細は、労働実態によると思われます。
宿直は、「断続的な業務」(労基法施行規則23条)に該当するため、労基署の許可があれば、労働時間、休憩、休日の規定の適用を排除することができ、医師の働き方改革の施行以前に駆け込みで、労基署に魔法の許可の申請を行う病院が相次ぎました。
しかしながら、「断続的な業務」というからには、「断続的」でなければならず待機時間が大部分を占めなければなりません。このような待機時間であれば心身への負担が軽いからという前提条件が満たされていなければなりません。
したがって、深夜に、救急車が矢継やに到着し、緊急オペや病棟からの呼び出しがあり、寝る暇もなかったという場合は、これは「断続的な業務」とはいいません。
このような場合、法的には、「労働時間」に該当し、病院は残業代を支払わなければならないのです。
「宿直」でも、とある地方の病院では、ほとんど就寝できない場合もあれば、ほとんど実働がない場合もあるとのことで、地域や病院によって実情は全く異なると聴きました。
もし、宿直やオンコールでも、たとえオンコールが判例上、労働時間に該当しないとされていても、それが余りに頻繁過ぎるというような場合、「もしかしたら残業代が発生するのではないかな?」と思ってみることがあります。

この点は、「医師、看護師等の宿日直許可基準について」という労働基準局長通達がありますので、一度、弁護士にご相談ください。

3.残業代の請求は普通のこと

医師は労働者ではない、という奇特なお考えの方もいるかもしれませんが、その考え方は間違っており、勤務医や研修医は法律上、労働者に該当し労働基準法の適用を受けます。医師は「やりがいのある仕事だから残業代など気にしてはいけない」という経営屋に騙されてはいけません。
そもそも、残業代の趣旨は、法の上限労働時間を守らせるために、それを超過して働かせた場合の使用者に対するペナルティとして労働基準法上機能しているものです。
今後、行政法規上は、年960時間/月100時間の残業の上限規制がされてしまうため、それを回避するためかえって残業代が支

払われなくなる恐れも否定できないのではないかと思われます。

4.医師の残業代請求のポイント

医師の残業代請求は、まずは、3年の消滅時効があることです。最終的には訴訟を提起しないと消滅時効の進行は止まらないので弁護士になるべく早く相談しましょう。
また、残業代の実態自体が争われることもあるため、労働者側の見解としての残業代の金額を算定する必要があります。
そして、手持ち証拠や示談の経緯を踏まえて、労働審判か、労働訴訟を選択して提起するなどが考えられることが多いと思います。

名古屋駅ヒラソル法律事務所の代表弁護士は、もともと、労組を顧問先に持つ、労働者側の労働弁護士出身の弁護士であり、手持ち時間のほとんどが労働時間と刑事事件のみという時期を過ごしたこともあり、ヒラソルは労働事件に強みを持っています。

一番、大事なのは、弁護士もそうですが、「医者の不養生」とならないように、しっかり残業代をもらって健康を害してしまわないことにすることです。

残業代が適正に支払わせることで、病院のその外の労働環境が改善されることも経験上あり得ることです。筆者の父は弁護士で、法律事務所で調べものをしているときに死亡しました。脳梗塞だったといわれています。特に、家族のいるお医者さんには、このようになって欲しくないという強い思いがあります。「弁護士の不養生」はともかく、医師の働き方改革のみならず、みなさんのきちっとした待遇を確保し、それが家族やお子さんの幸せにつながるものと考えます。

5.名古屋駅ヒラソル法律事務所は医師、歯科医師をバックアップします

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、医師や歯科医師など医療関係者への法的支援に力を入れております。通常の労働関係において、医道審議会対応も行い、多くの相談を受けていますが、医師や医療従事者の想いを受けて、残業代請求について過去の労働組合の顧問事務所の労働者側弁護士としての強みを発揮し、名古屋や東海地方を中心に東京や大阪の案件にも対応して参ります。医師や歯科医師の方々のお困りごとは様々ですが、残業代など労働問題に精通している筆者がお手伝いをさせていただければ幸いです。また、こうした法的問題は病気と一緒ですので、お早目にご相談ください。ヒラソルでは、ウェブによるご相談にも対応しています。

以上

menu

お急ぎの場合15電話相談(無料)をご利用ください。

弁護士の手が空いていれば、
電話での相談の対応をいたします。
あいていなければ折り返します。
052-756-3955
受付時間:月曜~土曜 9:00~18:00
対象:愛知県、岐阜県、三重県、京都府、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県にお住まいの方
弁護士服部まで