建築・土木の残業代請求
残業代の上限については、原則として、建築・土木だからといって直ちにくぁるものではなく、1日8時間・週40時間が基本ですが、36協定の締結により、時間外労働をさせることができます。
もっとも、建築・土木の一部の事業については、時間外労働の上限規制が適用除外になっているところがあります。
労働基準法195条1項は、「工作物の建築の事業」その他これに関連する事業(災害時における復旧及び復興の事業に限る)として厚生労働省令で定める事業に関する第36条の規定の適用については、当分の間、同条第5項中、「時間」とあるのは「時間」と、「同号」とあるのは「第二項第4号」として、同条第6項(第2号及び第3号に係る部分に限る)の規定は適用しないとされています。
もっとも、労基法195条1項2項はいずれも例外的な規定であるものの、令和6年4月以降は、建設業界にも上限規制が全て適用される条文になっています。なお、誤解があってはいけませんが、行政法規上、残業代の上限規制があるからといって、会社に残業代がなくならないのは当然です。したがって、行政法規をオーバーしていても、残業代を請求することはできます。
今回は建設業界や土木に関しての残業代請求に詳しい弁護士が解説をします。
建設業界であっても、残業代の規定が適用除外になることはありませんので、法定労働時間を越えて働けば残業代請求の対象となります。
Q 建設及び土木で労働時間とされるのはいつの時間でしょうか。
使用者の指揮監督下に入っていれば労働時間と評価されざるを得ませので、定時から現場で働いた後、事務所へ戻ってデスクワークをした時間は対象となります。
Q 現場時間が開始される前に機材や設備の安全点検をする時間
現場時間のみが労働時間というわけではありません。三菱重工長崎造船所事件によれば、いわゆる前超過勤務であっても必須のものであれば労働時間になるとされていますから、現場時間が開始される前に機材や設備の安全点検をする時間は労働時間となります。
Q 設計変更などにより工事が遅れたために対応した時間
設計変更などが生じたことにより労働時間が延びることはやむを得ず使用者の指揮監督下に入ったといえますので労働時間となります。
Q 下っ端であるため、始業前の1時間から、出発の準備をしていた場合
そもそも、始業前1時間前から準備をしないと、当日の業務が廻らないという場合は、労働時間と見ざるを得ません。
医師や歯科医師が不正行為や問題行動をしてしまった場合の行政処分や懲戒処分について弁護士が解説します。事件や事故を起こして不安になっている方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.深夜労働(午後10時から午前5時まで)の残業代
その割増率は、25パーセント以上です。ただし、深夜労働において所定労働日数を越えている場合は100パーセントの請求ないしトータルで125パーセントの請求ができる場合もあるとされており、一度弁護士にお尋ねください。なお、法定休日労働が、法定労働時間を越えても135パーセント+25パーセント=160パーセントを請求することまではできないものとされております。
また、深夜労働にプラスして法定労働時間を超過する場合は、125パーセントの割増賃金を請求することができ、トータルで150パーセントを請求できるものと考えられています。
なお、しばしば、建築関係で論点とされる「管理監督者」についても、深夜割増は適用されるものとされています(ことぶき事件・最判平成21年12月18日労判1000号5頁)。したがって、管理監督者でも深夜割増の対象にはなります。
2.残業代請求における主張立証
建築や土木は、指揮命令という点で争点になりやすい可能性があります。具体的には、労働に従事している時間が労働時間に当たることまではいうことはありませんが、労働の前後に行われる準備行為、後片付け、実際に作業を要していない手待ち時間などです。
この点については、三菱準工業長崎造船所事件(最判平成12年3月9日労判778号11頁)や大星ビル管理事件(最判平成14年2月28日労判822号5頁)から判断されることになります。
2-1.処分の種類
労働時間の立証資料として代表的なものがあります。
- 資料の作成経緯…日常の労働実態や労働時間についての原告労働者や会社側証人の証言内容も踏まえて労働時間が認定される可能性があります。
- タイムカードなど客観性の高い資料がある場合
- 参加が強制されている朝礼が行われている場合には、証言のみによって、始業時刻が認定されることもあります。
- 原告労働者が証言も重要な証拠となる。
- タイムカード、IDカード等によって労働時間管理がされている場合、タイムカードは、労働時間を立証するための最も有力な証拠となります。
- GPS記録によって労働時間を認定した例もあります。
- 労働者が作成し、会社に提出する「業務日報、「営業日報」「出勤簿」等も、何時から何時まで働いていたか、労働時間認定の有力な証拠となります。特に日々作成されていればその証明力が高まります。
- このほか、労働者作成のメモやアプリによるメモも考えられます。
- このほか、パソコンメールの送信時刻、IC乗車券の乗車履歴、警備会社による事業場の鍵の開閉記録等も活用できます。
- 軽微会社の記録は、弁護士会照会(弁護士法23条の2)や文書送付嘱託、調査嘱託によって入手できます。
2-2.管理監督者
建築会社の方や土木の方は、一定の役職があり、労働者を「管理職」として処遇し、管理職手当、役職手当を支払う一方で、残業代を支払わないという扱いをしていますが、これは、そもそも間違いです。
残業代の支払いを含む労働時間規制の適用が除外されるのは、労働契約法41条2号が定める管理監督者に該当する場合に限られます。
したがって、会社内で管理職として扱われていても、「管理監督者」に該当しない場合は、残業代の請求はもちろん可能です。
一般的には、「大企業の課長レベルでは管理監督者に該当することはなく、部長レベルで該当する」という程度に考えておくと良いでしょう。
建築や土木での常識は、リーガル・スタンダードに引きなおすとおかしいこともたくさんあります。
- 準備や移動時間は労働時間にならない
- 休憩時間の自由利用ができない場合は労働時間となる
- 土木の仕事は特殊で残業代は出ない
- 片付けや道具のメンテナンスは労働時間ではない
- 現場にいる時間のみ労働時間である
- 日報、報告書、図面作成は労働時間にならない
―といった労働慣習です。
しかし、本質は、使用者の指揮命令下にいるか否かです。こういった指摘にお悩みの方は、是非、ヒラソルにご相談ください。
ヒラソルは、労働者側の労働弁護を多くこなしてきた弁護士による弁護士事務所です。会社の残業代がおかしいと感じたら、是非、ヒラソルにご相談されることをすすめます。2020年から残業代の時効は3年ですが、働いた対価がもらえないのは、労働者としては極めておかしなことです。
弁護士と一緒に、賃金を取り戻しましょう。ヒラソルでは、残業代の支援体制を整えていますので、お困りの方はお早めにご相談ください。
以上