看護師の残業代請求

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、看護師の方、准看護士の方、看護助手の方など医療従事者の方の残業代請求について、請求を求めている方の弁護活動に力を入れています。

看護師さんは、比較的残業が多い仕事だといわれており、1日1時間以上残業しているケースも散見されます。看護師さんに関しては、「前残業」という始業時間前の残業が30分程度あることが多く、就業時間後の残業は、30分から1時間程度というのがボリュームゾーンとなっています。

では、どうして看護師さんは残業が多くなってしまうのでしょうか。

比較的大病院の場合は、交代制となっており、2交代制や3交代制があり、その交代の前後で残業代が発生することが多いと思われます。

また、2交代制の場合、日勤と夜勤がありますが、夜勤の拘束時間が長いのが特徴です。そして、3交代制は、日勤、準夜勤、夜勤と分かれ、それぞれ8時間ずつ勤務します。

看護師さんの場合、それぞれ後の勤務の看護師さんへの申し送りやカルテの記載があるため、残業が生じてしまうといわれています。

また、看護記録の作成も実際は、勤務時間中、作成できず、申し送り終了後に看護記録を作成している場合もあります。電子カルテでその都度記載していくというスタイルもあるようですが、それでも勤務時間内に終わらない場合もあります。

また、患者の急変がある場合、シフトがあるからといって直ちに帰宅できない場合もあります。

その他、看護師さんは、意外と研修や勉強会への参加が多く、肝心の仕事の時間が削られて行ってしまうという問題もあります。中には、勤務時間外に研修を実施している病院もありますが、業務それ自体ですので残業代の対象になるものです。

また、看護師さんは、大病院以外での勤務もあるため、離職に際して残業代請求が比較的問題になりやすい職業といえます。

なぜなら、通常、退職した場合、心理的圧迫がなくなり、開業医などに対しても残業代を請求しやすくなるからです。

ナースでも、固定残業代や年棒制を主張されることがあります。

Q 固定残業代制の問題点を教えてください。

残業代を一般的方法で支払うのではなく、例えば1か月10万円というような形で支払う方法をいいます。このような「固定残業代制」は、採用する企業が広がりつつあり、「低額働かせ放題」ともいわれています。固定残業代には、基本給の中に「残業代」が含まれているという「基本給組み込み型」と、その名のとおり「固定残業代手当」として支払われる「手当型」があります。

もっとも、固定残業代の場合、それが残業代であるのか、様々な名称であるため曖昧であることが少なくありません。そして、結局、計算しなおすと不足があるにもかかわらず、残業代を支払わないという残業代不払いの隠れ蓑としての利用実態も少なくありません。

まずは、①固定残業代制度を採用することが合意されているか、②合意があるとして、通常労働部分と超過勤務部分が峻別することができるか(判別可能性もしくは明確区分説)、③固定残業代とされるものが、時間外労働の対価であること、④固定残業代をもらうことで細かい清算はしないということが公序良俗に直ちに反するわけではない、⑤固定残業代でカバーする射程距離が及ぶ労働時間が長すぎる場合は、固定残業代ではカバーされない(公序良俗違反である)というように整理されるものと思います。

Q 判別可能性の要件について教えてください。

労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないかを検討することになる。そして、その検討の前提として、通常の労働時間の賃金に当たる部分とを判別することができることが必要とされています(最判平成6年6月13日労判653号12頁、最判平成24年3月8日労判1060号5頁、最判平成29年2月28日労判1152号5頁も参照)。

判別できる場合もあれば判別できない場合もあり、判別できなければ残業代は未払いというしかありません。例えば、金額も、時間数を明らかにしているかがポイントになります。ですから、単に、基本給には、割増賃金(残業代)が含まれているといった合意を仮にしたとしても、基本給のうちどの部分が「通常の労働時間の賃金」に当たり、どの部分が「割増賃金」に当たるかが判別不能な場合は、残業代を支払っていることにはなりません。

このように、判別ができない場合、労働者の側から見ると、判別できない以上、全額を「基本給全体が通常の労働時間の賃金に当たることになり、それを計算の基礎とした残業代請求が可能になる」と解されています(東京高判平成30年2月22日労判1181号11頁)。

上記高裁は、最高裁で破棄された判決の差し戻し審でしたが、当初の交際は、「当該医師は、労務の提供について自らの裁量で律することができ、給与額が相当高額であったこと等から、月額給与のうち割増賃金に当たる部分を判別することができないからといって不都合なことはない」と判決をしたところ、最判平成29年7月7日労判1168号49頁に破棄されたものです。

なお、現在、残業代とされる金額、時間のいずれかのみが明示されているにとどまる場合に判別可能性があるかは、通説的見解がない状況にあるので、一度、弁護士に相談されると良いでしょう。

Q 年棒制を採用されている場合、どのような場合に残業代が発生しますか。

まず、年棒制それ自体は、残業代の支払いを免除する制度ではありません。したがって、通常の賃金の部分と残業代の部分を明確に区別できるようにしておく必要がある、つまり判別可能性が必要であるというのは、固定残業代と一緒といえます。

したがって、確かに、年棒制の中に残業代が含まれることもありますが、通常の労働時間の賃金と判別でき、かつ、支払金額が労基法37条で定められた割増賃金を下回っていないことが必要となります。よって、通常の労働時間と判別できず、労基法37条の算定を下回っている場合は残業代が請求できます。

この点、年棒制を採用すれば、機械的に残業代を抑制できるということはありません。

年棒制の場合、年棒14分の1の金額を基本給として毎月1回の定期賃金としての給与(年12回)と、年2回の賞与として支払っているものと考えられています。

この場合、割増賃金の基礎となるものとしては、年棒の14分の1が、月によって定められた賃金(労基法施行規則19条1項4号)に当たるというA説、年棒全体を、月週以外の一定の期間によって定められた賃金(19条1項5号)として賞与も含めた金額を年間の総労働時間で除するというB説がありますが、実務は後者によっています。

例えば、産業医のケースで、年棒1830万円のケースで、労働者の残業代を算定するに当たり、当該年棒額を1年間の所定労働日数と1日の法定労働時間で除して算出される取扱いと思われます。

1.看護師の残業代請求の有効な証拠は何ですか?

看護師は労働者であることに争いはありません。もっとも変形労働時間制度などが採用されていないかなどの確認のため、労働契約書の確認は必要になるでしょう。

そのうえで、残業をしているという証拠が必要となります。ばしっとした証拠があれば、任意の示談交渉も成立しやすくなります。

しかし、証拠に乏しい場合は、労働審判にしても労働訴訟にしても、残業代請求が立証できず敗訴してしまうこともあります。

まずは、タイムカードのコピーや写メを撮影しておくことは大事かもしれません。また、残業代の出勤アプリに入力しておくことも有力です。一斉打刻などの不当な運用がなされていない限り、基本的な証拠のコアになるものと考えて良いと思います。

勤怠管理システムを導入している場合については、データで出退勤を管理しているので、こちらも残業の状況を確認する上で重要な証拠となります。したがって、可能な限りデータのコピーや写メを撮影しておきましょう。

帰宅する際に、自分や家族宛にショートメールを送るということだけでも有効です。

看護師さんの場合、定時以外の看護業務やミーティング、時間外研修や勉強会、セミナーの参加、休憩がとれなかった場合、「宿直」といわれつつ、断続的ではない労働をした場合などが考えられます。

これらは、日々の記録を取っておくと良いでしょう。iPhoneのメモや都度メールを自分宛に送付する習慣をつけておくなどがあり得るかと思います。

また、看護師は、「前残業」も少なくないと思いますので、医局や待機場所に入った時点で記録をとっておくのもよいでしょう。

個人情報保護法の観点から慎重な取り扱いが必要ですが、看護師の場合、看護記録に記載している経過日時の記載から労働時間を割り出せる場合もありますが、残業代紛争で必ずしもそれらの記録にアクセスできるとは限らないので、日記や携帯のiPhoneなのでメモを取っておく方が良いでしょう。

最近は音声入力機能がありますので、自分が理解できれば、とりあえず音声で入力しておくということもあり得ると思われます。

Q 私は、業務請負の看護師です。しかも年棒制です。実質労働者だと思いますが、割増賃金の請求はできますか。

個別の事案に応じてケースバイケースとなりますが、病院との間で業務請負契約を締結したほか、年棒制の契約を締結した看護師が、実態は労働者であるとして時間外労働の未払賃金の請求をしました。この点、大阪地裁平成27年1月29日【医療法人一心会事件】では、医師の指揮監督下の労働であるなど労働契約の性質を有するとしたうえで、年棒に割増賃金を含む合意があっても、割増部分が法定額を満たしているか確認できず、そのような支払方法は無効としています。

このケースが全ての事案にあてはまるわけではありませんが、労働契約か否かは実質的に判断され使用従属性の有無を判断されます。使用従属性によっては、この判例が妥当しない場合もありますので、まずは労働契約といえるかどうかから弁護士が検討することになります。また、年棒が300万円とされていましたが、基本的に高額と評価することができず、これに割増賃金まで含むと解するのは困難であるように思います。

このケースでは理論的には基本給部分と割増賃金部分が特に区別されておらず一体として支払っていても、後から残業代部分を計算できないような形での支払方法は、労基法37条に違反して無効とされています。本件では、労働時間は午前9時から午後7時で休憩時間は2時間。ただし、木、土、日、祝は変則的な労働時間であり、休日は火曜、水曜であり、基本給は一応25万円と定められていましたが、このような事実関係の下、なぜ業務委託なのか、年収も高くなく労働者としての保護を与えない理由がない、労働条件もいささか過酷なものといえるなどの事情もあり、脱法的な業務委託を労働契約と裁判所は判断したものとされており、評釈でも結論は相当とされています(経営者側弁護士による精選労働判例集第6集38ページ)。

2.看護師の残業代が支払われないからくりと法的に戦う

管理者側からみますと、看護師を「定額働かせ放題」にするには、上記のように業務委託にしたり、請負にしたり、待機時間といってみたり、「固定残業代」、「年棒制」、「管理職」、「当直」だからというのが魔法の言葉とされています。
しかし、看護師であれば、看護師長以外は管理職と見るのは困難と思われます。

当直やオンコールはよく問題になりますが、いずれも労働時間には該当しにくいと判断されていますが、委細は、労働実態によると思われます。
宿直は、「断続的な業務」(労基法施行規則23条)に該当する必要があります。横浜地判令和3年2月18日【アルデバラン事件】は、看護師さんが、緊急看護対応業務に従事するための待機時間は全体として労働から解放されているとはいえず、登記法の労働時間にあたり、かつ、施設管理者とされていたものの、管理監督者とは認められず、管理者手当は割増賃金の趣旨と認めることはできず、割増賃金と既払金として控除することも許されず、割増賃金の算定基礎に含まれると判断しています。

日直や宿直は、「断続的な業務」というからには、「断続的」でなければならず待機時間が大部分を占めなければなりません。このような待機時間であれば心身への負担が軽いからという前提条件が満たされていなければなりません。
したがって、深夜に、救急車が矢継やに到着し、緊急オペや病棟からの呼び出しがあり、寝る暇もなかったという場合は、これは「断続的な業務」とはいいません。
このような場合、法的には、「労働時間」に該当し、病院は残業代を支払わなければならないのです。
「宿直」でも、とある地方の病院では、ほとんど就寝できない場合もあれば、ほとんど実働がない場合もあるとのことで、地域や病院によって実情は全く異なると聴きました。
もし、宿直やオンコールでも、たとえオンコールが判例上、労働時間に該当しないとされていても、それが余りに頻繁過ぎるというような場合、「もしかしたら残業代が発生するのではないかな?」と思ってみることがあります。

この点は、「医師、看護師等の宿日直許可基準について」という労働基準局長通達がありますので、一度、弁護士にご相談ください。

3.残業代の請求は普通のこと

看護師は聖職者ですが労働者でもあります。法律上、労働者として、保護されなければなりません。自分がケアできなければ、他人もケアできないと思います。
看護師は「やりがいのある仕事だから残業代など気にしてはいけない」という経営屋に騙されてはいけません。
そもそも、残業代の趣旨は、法の上限労働時間を守らせるために、それを超過して働かせた場合の使用者に対するペナルティとして労働基準法上機能しているものです。

4.医師の残業代請求のポイント

看護師の残業代請求は、まずは、3年の消滅時効があることです。最終的には訴訟を提起しないと消滅時効の進行は止まらないので弁護士になるべく早く相談しましょう。
また、残業代の実態自体が争われることもあるため、労働者側の見解としての残業代の金額を算定する必要があります。
そして、手持ち証拠や示談の経緯を踏まえて、労働審判か、労働訴訟を選択して提起するなどが考えられることが多いと思います。

名古屋駅ヒラソル法律事務所の代表弁護士は、もともと、労組を顧問先に持つ、労働者側の労働弁護士出身の弁護士であり、手持ち時間のほとんどが労働時間と刑事事件のみという時期を過ごしたこともあり、ヒラソルは労働事件に強みを持っています。

一番、大事なのは、弁護士もそうですが、「医者の不養生」や「看護師の不養生」とならないように、しっかり残業代をもらって健康を害してしまわないことにご身体をケアすることです。

残業代が適正に支払わせることで、病院のその外の労働環境が改善されることも経験上あり得ることです。筆者の父は弁護士で、法律事務所で調べものをしているときに死亡しました。脳梗塞だったといわれています。特に、家族のいるお医者さんには、このようになって欲しくないという強い思いがあります。「弁護士の不養生」はともかく、医師や看護師の働き方改革のみならず、みなさんのきちっとした待遇を確保し、それが家族やお子さんの幸せにつながるものと考えます。

5.名古屋駅ヒラソル法律事務所は看護師さんをバックアップします

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、看護師さんなど医療関係者への法的支援に力を入れております。転職の際の残業代のご相談などもございます。
看護師さんなどの医療従事者の想いを受けて、残業代請求について過去の労働組合の顧問事務所の労働者側弁護士としての強みを発揮し、名古屋や東海地方を中心に東京や大阪の案件にも対応して参ります。医師や歯科医師の方々のお困りごとは様々ですが、残業代など労働問題に精通している筆者がお手伝いをさせていただければ幸いです。また、こうした法的問題は病気と一緒ですので、お早目にご相談ください。ヒラソルでは、ウェブによるご相談にも対応しています。

以上

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