ドライバー(運転手)の残業代のご相談

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、トラック運転手などの残業代請求について法的支援を求める際の弁護活動に力を入れています。

ドライバーの残業代の請求については、①労働時間の把握が難しい、②他の労働者に波及し会社の経営に影響を与えかねないため、会社が徹底的に争ってくる―という特色があると考えられます。加えて、令和6年4月から、トラック運転手に時間外労働の上限規制が適用され、客観的なデータと実労働時間に齟齬があるというケースが生じる可能性もあると思われます。すなわち、令和6年4月以降は、行政法規により、トラック運転手の年間時間外労働の上限が960時間(特別条項付36協定がある場合に限る)に制限されました。そして、原則、時間外労働は、月45時間、年360時間以内にすること、ただし年間6か月は臨時的かつ特別な事情がある場合、年間720時間、複数月平均80時間以内、月100時間以内を越えられないものとされました。

また、令和5年4月、事業規模を問わず、「割増賃金5割ルール」が導入されました。労働者に1か月60時間を超える残業をさせた場合は、使用者は、50パーセントの割増率で計算した時間外手当を支払う必要が生じます。ただし、1か月60時間までは、割増率は25パーセントです。
こうした法改正も踏まえて、残業代の請求を検討していくことがポイントとなります。

1. ドライバーの残業代の理論的問題

ドライバーの残業代請求をするに当たっては、ドライバーがどのような配送の動き方をしているのか、現場での待機の様子がどうか、具体的な就労の実態が客観的にわかりにくいことから、使用者の指揮監督下にいるのか、言い換えれば労働時間であるのかが問題になることが多いといわれています。
しかしながら、ドライバーの残業代の計算は、一般的に固定給のみという場合もありますが、固定給に歩合給を考慮している場合が多いといえましょう。したがって、固定給のみの場合は時間当たりの単価の計算がそれほど難しくありませんが、歩合給も考慮される場合、時間当たりの単価の計算に争いが生じるという理論的な問題があり得るのです。

例えば、タクシー会社では、月額の売上高に一定の歩合率を乗じて賃金を決定するオール歩合給制をとるケースが見られます。オール歩合給制においても割増賃金請求は認められます。
高知県観光事件判決では、オール歩合給制のタクシー運転手について、「歩合給の額が、時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、労基法37条及び労働基準法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務がある」とされています。
したがって、歩合給については、残業代が含まれていると考えることは直ちには難しく、時間に応じた残業代の支払いをしなくても良いということにはなりません。
すなわち、歩合給について、割増賃金の基礎となる賃金の算定方法を労働基準法37条が規定していますので、歩合給に加えて、それにより算定される割増賃金を支払う必要があります。
歩合給については、割増賃金を含めて支給されたというには、通常の労働時間の賃金部分と明確に区別できなければ、残業代が支払われたと認められないことになっていますので、通常の労働時間の賃金部分と明確に区別できるかもポイントとなります。
歩合給がある場合でも、固定給と通算して時給に換算することになります。このとき、固定給部分と歩合給部分を分けて時給換算することになっています。

例えば、法務太郎さんの固定給が15万円、出勤日数が24日、歩合給が5万円、月の総労働時間が252時間の場合を想定してみましょう。
固定給は、「賃金単価=固定賃金÷月所定労働時間」で決まります。
歩合給は、「賃金単価=歩合給÷総労働時間」で決まります。
そうすると、Aさんの場合、固定給部分は、「15万円÷24日×8時間≒781円」となります。そして、歩合給部分は、「5万円÷252時間≒198円」ということになります。
したがって、例えば、法務太郎さんは、「時間外労働40時間+時間外かつ深夜労働20時間」の場合、固定給部分は、「781円×1.25×40時間+781円×1.5×20時間」となり「62,480円」となります。
他方、歩合給部分は、「198円×0.25×40時間+198円×0.5×20時間」となり「3,960円」となります。
よって、1カ月当たり、「66,440円」となります。
そして、令和2年4月1日、労基法が改正され、残業代請求の時効は2年から当面の間3年となりました。(本則は5年であるが、暫くは3年とされています。民法166条1項、労働基準法附則143条3項)
よって、3年分で、約239万円になります。
以上より、「うちは歩合給だから残業代は出ないよ」とか、「残業代は時間外手当で支払い済みだから、いくら残業しても金額は変わらない」とか、説明を受けた場合は一度、弁護士に相談してみると良いでしょう。

2.ドライバーの労働紛争のポイントは労働時間

運送業は、遠隔地までトラックを運転して荷物を届けることに加えて、現地でも待機時間が発生することがほとんどです。したがって、その性質上、拘束時間が長くなりやすいものの、使用者からすれば「労働密度」が低いとか、「指揮命令下にない」とか抗弁が出されやすいともいえるでしょう。
しかも、運送業は、事業場を離れる性質上、使用者がドライバーの行動を完全に把握することは困難とされていました。ただし、最近はGPSを利用して、位置を把握する会社も少なくないとされ、ドライバーの行動が把握できないから残業代を支払わない、という理屈は通用しにくくなっているかもしれません。
運送業は、いつ休憩時間を採っているかも分かりにくく、運送業は、残業代請求の中で「労働時間」の認定がシビアに争われやすい業種といえることができます。
もっとも、最近は、働き方改革関連法の施行により、残業代の上限がもうけられ、刑事罰もある(労基法32条)ことから、労働時間に争いが生じるということ事態が労使双方にとって望ましくないということがいえるでしょう。今後とも、ドライバーへの波及効果があることから、労使双方の争いは大きくなるかもしれません。

3.手待ち時間と休憩時間の違い

ドライバーの場合は、「手待ち時間」なのか、「休憩時間」なのかが争いになりやすいといえるでしょう。当然のことながら、前者は給与が支払われ、後者は指揮監督下から逸脱しても良いのですから給与は支払われません。
一般的には、例えば、東京から名古屋にトラックで荷物を運び、午前5時に到着をしたものの、荷下ろしの開始が荷主の都合で午前10時ということはざらにあることです。
このように、運送業では、荷先ないし配送先の都合や配送時間の関係、先のトラックが荷積み・荷下ろしを完了するまで順番待ちをすることになります。
しかも、最近は、荷積みや荷下ろしをトラック・ドライバー自体が行うということも珍しくなくなりました。
こうして、トラック・ドライバーは、現地には到着しているが待機時間が恒常的に発生しやすいという問題があり、それも上記で述べたように5時間にわたる長時間に及ぶということもあったのです。
そうすると、この待機時間は、いわゆる「手待ち時間」であるのか、「休憩時間」であるのか問題とされたのです。
ドライバーの立場からは、荷物を放置して遊びに行ったり休憩しにいったりすることはできないのですから、論理的に「手待ち時間」という主張が出てきがちですが、判例は、ドライバーの待機中の様子からケース・バイ・ケースで処理されているため、休憩時間と認定される可能性もありますので、注意が必要です。
裁判例を参考にすると、以下のような場合、「労働時間」になりやすいといえます。

  • 行列の途中であり、行列が前に進んだら自分のトラックも前に進めないといけない。
  • 伝票を受け取って午前7時が荷下ろしの時間と指定されていてもその時間に荷下ろしが始まるわけではなく、前倒しになったり後倒しになったりすることがあること。
  • 他の運送会社に迷惑を掛けないため、荷物を即時に受取り、自分のトラックに運ぶ作業をする必要があるため、出てくる荷物を注視していなければならない場合。
  • 配車スペースが空いていない場合は、国道で待機せざるを得ず、いつトラックを動かすか分からず、携帯電話も手放せない状況であること。
  • 短時間、トイレに行ったり、コンビニに行ったりすることができるからといって、休憩時間とはいえない。
  • 飲酒やパチンコができる場合は休憩時間である。
  • 荷下ろしの作業を終え、次の指示を待つまでの間の時間の利用状況次第では労働時間ということはできない。
  • 相当長時間の運転には、一定の休憩時間が織り込まれている可能性がある。

4.労働時間の立証に重要な「タコグラフ」について

タコグラフは、自動車の運転席に取り付けられる運転記録用計器です。最近は、データを電気的に記録するデジタルタコグラフも多用されるようになっています。
タコグラフは時間管理のものではありませんですが、運転日報と照らし合わせることで運行内容に問題がないかを調べることができるのです。
例えば、終業時刻が争いになることがあります。ドライバーからすれば、駐車場に戻っても、整備や掃除を終えないと直ちにトラックを離れることはできないでしょう。
他方、会社は、駐車場に停止したことをもって労働時間はお仕舞としたがります。
そうすると、ドライバーのタイムカードとタコグラフの帰庫時間、アルコールチェックの時間、点呼表の時間を見て、いずれが合理的かを決めることになります。
なお、ドライバーは日報をつけていますが、休憩時間は手書きとなりますが、自ら休憩と記載すると禁反言の法理ないしクリーン・ハンズの原則により、労働時間と主張することが難しくなる可能性があるといえるでしょう。
加えて、働き方改革の趣旨の関係から、デジタルタコグラフについて、使用者から配達を法令の範囲で終えた体裁を繕うため、休憩をとっていなくても休憩時間を押すように言われていたというケースもあります。もっとも、これは、使用者側の指示を示す証拠が必要になることが多いでしょう。
いずれにせよ、デジタルタコグラフの普及や働き方改革関連法の影響により、休憩時間か否かの有無がトラックの停止位置との関係で争われることもあります。例えば、荷下ろしの配車位置であるのか、近隣のコンビニであるのか、路上であるのか、エンジンの回転数や走行距離の推移などから、使用者の指揮命令下にあったか否かが今後争われることが多くなるかもしれません。

5.ドライバーの事案でも客観性を持った交渉を

デジタルタコグラフの普及は、ある意味、ドライブレコーダーの普及と似ているといえます。つまり、デジタルタコグラフという客観証拠から、ドライバーが何をしていたのかをある程度推認することができるようになっていたのです。
そこで、ドライバー側としても、なるべく具体的に就労していたと主張することが大切なポイントになってきます。
使用者側の弁護士としては、誠実な交渉をしてくるのかどうかもポイントになるでしょう。例えば、複数のドライバーを代理している労働者側の弁護士に対しては激しく争ってくる場合もあります。また、波及リスクを考慮したり退職済みであったりするかを考慮しているのかを検討していることは当然のことといえるでしょう。同じような賃金体系のドライバーがどれくらいいるかも考慮要素になります。

6.トラック・ドライバーの残業代請求のご相談

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、不当なダンピング競争に巻き込まれ、長時間労働を余儀なくされたトラック・ドライバーの皆さんの尊厳を回復するため、残業代請求に関する訴訟に精通しています。お悩みの際はご相談ください。

以上

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