パワー・ハラスメントの現状と対応策

第1  はじめに

パワー・ハラスメント(パワハラ)は、職場における上司や同僚からのいじめや嫌がらせを指します。パワハラは労働者のメンタルヘルスに重大な影響を与え、労働環境を悪化させる問題です。本記事では、パワハラの現状や受けた場合の対応策について弁護士が解説します。

第2  パワハラの定義と類型

1  パワハラの定義

パワハラは、上司や同僚が優越的な地位を背景にして行う、業務上の必要かつ相当な範囲を超えた言動を指します。パワハラには、以下の6つの類型があります。

  • 過大要求:能力を超えるような業務を課すこと
  • 過少要求:業務を与えず、能力を発揮させないこと
  • 私的なことに立ち入るプライバシー侵害:個人的な生活に干渉すること
  • 侮辱・名誉毀損:人格を否定するような発言や行為
  • 暴力・威圧:身体的な暴力や威圧的な態度
  • 孤立・無視:業務から排除し、孤立させること
     このような経験をされたことはありませんか。一度、「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書の一読も勧めます(平成30年3月30日)。

2  なぜ、パワハラは許されないのか

  1. パワハラは、「昭和」のころは「愛のムチ」として当然適法でした。では、なぜ、令和の時代、パワハラは許されないのでしょう。
  2. 一つは、人間としての尊厳や職業人としての尊厳を損ねる行為だからです。
    具体的にいうと、労働者は賃金を得るだけではなく、労働を通じて、知識、経験、能力を向上させるという自己実現の利益があるのです。
    パワハラはこれら具体的利益を侵害することが多いといえます。
  3. 生命や身体の自由に対する侵害になることはもちろん、名誉・プライバシー権になることが少なくないということがいえるでしょう。
  4. そして、あまり知られていませんが、最高裁は関西電力事件(最判平成7年9月5日)で、労働者には、「職場における自由な人間関係を形成する自由」があるとされ、仲間外れ、無視はこれら権利を侵害するものといえるのです。

第3  どんなときにパワハラは違法になりますか。

  1. 難しいのは、使用者には職務遂行の権利を持っていますから、労働者がミスをした場合、訓戒することは当然の権利とされているのです。したがって、適正な業務指導の範囲内といえるか否かがメルクマールとなるのです。
  2. 反対にいうと、①業務上の必要性がない行為、②業務の目的を大きく逸脱した行為、③業務遂行からして手段として不適当、④当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為を掲げているのです。
    適法性を判断する場合、上司のパワハラ発言のみならず、事実経過、具体的な諸事情を考慮して判断することになります。

第4  裁判例の概況についての解説

1  岡山県貨物運送事件判決(仙台高判平成26年6月27日)

  1. 新入社員に対する上司の厳しい指導・叱責が問題となった事例です。
  2. 一審はパワハラではないと判断されましたが、二審ではパワハラと認定されました。
  3. 二審では、労働者の心理状態や疲労状態、業務量、労働時間、肉体的・心理的負荷を総合的に考慮し、指導が奏功していない場合には別の指導体制を構築すべきであったとされました。

2  前田道路事件判決(高松高判平成21年4月23日)

  1. 自殺した社員が営業所長であった事例です。一審と二審で判断が分かれましたが、二審では上司の叱責の動機を分析し、正当化される範囲を評価しました。
  2. 前田道路事件は、結論、不法行為や安全配慮義務違反の成立を否定しました。
  3. 本件では、松山地裁と判断が分かれたことが注目されました。いずれにせよ、労働者の人格を否定するような言動があった場合、パワハラとして認定されることが重要であり、令和の時代において前田道路事件判決が通用力を有するか疑問に思います。

第5  パワハラとメンタルヘルス

  1. パワハラは、労働者のメンタルヘルスに深刻な影響を与えます。被害者の精神的な健康を害し、労災申請を招くこともあります。使用者としてもパワハラについては慎重に対処する必要があります。
  2. 特に「昭和の価値観」を持つ年長労働者が、Z世代の労働者との間でトラブルを起こすことが懸念されます。
  3. パワハラの予防と対応には、職場環境の整備が欠かせません。有名企業だからといって、こうした職場環境整備が十分であるかは、裁判例を並べる限り疑問に思う点もあります。一例を挙げると、ファースト・リテイリング(ユニクロ)事件(名古屋高判平成20年1月29日)では、頭部を板壁などに打ち付ける等の暴行、労災手続に関して、「ぶち殺そうかお前。調子に乗るなよ、お前」などのパワハラ行為について9年分の休業損害が認められています(ただし、6割の素因減額あり)。

第6  企業の対応策が採られていない場合は、令和の時代、「ブラック企業」と評して差し支えない。

企業はパワハラの予防と対応に積極的に取り組む必要があります。具体的には、以下のような措置が考えられます。

  • ハラスメント防止研修の実施:従業員に対して、ハラスメントの定義や具体的な事例を紹介し、予防策を教育します。
  • 独立性のある相談窓口の設置:パワハラの被害者が安心して相談できる窓口を設置し、迅速に対応します。(会社の総務部や人事部が兼任していたり、メインの顧問弁護士が窓口になっている場合は不正な相談窓口といって差し支えありません。)
  • 職場環境の整備:労働者が安心して働ける職場環境を整備し、定期的なチェックを行います。
  • 適切な人事措置:パワハラが発生した場合、迅速に適切な人事措置を講じ、再発防止に努めます。例えば、パワハラが発覚した場合、すぐに両者を引き離すことが正しい対処法であり、これができない会社は、昭和ならいざ知らず、令和の時代は「ブラック企業」です。

第7  まとめ

パワー・ハラスメントは、労働者の精神的健康に深刻な影響を与える問題です。労働者は、法的な枠組みを理解し、ハラスメントの解決に努めるほかないと思います。あなたの勇気が職場環境の改善と労働者の権利保護に結び付くと思います。

以上

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