育児介護休業ハラスメント

1  はじめに

育児介護休業は、働く親が子育てや介護をするために取得できる制度です。現行の法律では、育児休業の申請があった場合、事業主はこれを拒否ないものとされています(育児介護法5条1項)。しかし、実際には育児介護休業の取得をしたことにより労働者が不利益な取り扱いを受けている例があります。

本記事では、弁護士が、育児介護休業の現状と課題について考察します。

2  育児介護休業の基本制度

1  育児休業

  1. 育児休業は、1歳未満の子どもを養育する労働者が取得できるものです(育児介護法5条1項)。
    この制度により、事業主は、労働者からの育児休業申請を拒否することはできません。
  2. ただし、勤続1年未満の労働者は労使協定で除外される場合があります(育児介護法5条2項)。
    育児休業は、原則として一人の子に対して1回限りであり、連続した一つの期間とされています。しかし、一定の条件の下で、子が2歳に達するまでの育児休業が認められる場合もあります(育児介護法5条3項4項)。
  3. 特に、父母がともに育児休業を取得する場合は、1歳2ヶ月までの間に取得可能であり、各々1年間の上限が設定されています(育児介護法9条の2)。
    ただし、父母一人ずつが取得できる育児休業の上限があります。
  4. なお、男性の育児休業について、令和3年6月から、子の出生後8週間以内に4週間まで、原則として2週間休業を申請でき、分割して取得することもできるとされている(ただし2回までしか分割できない)。

3  賃金と賃金

  1. 育児休業中の賃金は原則として無給です。ただし、育児休業給付金が支給される場合があり、6ヶ月間は賃金の67%、その後は50%が支給される可能性がありますので、一度確認されると良いでしょう。
  2. この給付金により、育児休業中の経済的負担を軽減することができます。

4  労働条件の変更

  1. 育児休業を取得する労働者には、所定外労働の制限や時間外労働の制限、深夜業の制限などが適用されます(育児介護法16条の8、17条1項、19条)。さらに、勤務時間短縮措置や解雇などの不利益取扱いの禁止も規定されています(育児介護法10条、16条の4、18条の2、20条の2)。

5  裁判例から見る育児介護休業

  1. 広島中央保険生協事件判決(最判平成26年10月23日)
    1. この判決は、妊娠・出産に伴う不利益取扱いを禁止した均等法9条3項に関する初めての最高裁の判断です。
    2. 副主任の職位にあった理学療法士の女性が、妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任の任を解かれてしまいました。これは、育休の取得による不利益取扱いなのでしょうか。
    3. 最高裁では、育休終了後も副主任に復帰できなかったことが問題となりました。この点、最高裁は、副主任に復帰させないことは均等法9条3項に違反すると判断されています。
    4. 副主任から解かれるというのは、管理職から解かれたり、必然的に給与の減額を伴うことがあります。また、手続的正義が尽くされているかも問題となります。最高裁は、「自由意思に基づく降格の承諾を認める合理的理由が客観的に存在するとき、又は、業務上の必要がある場合において、労働者の不利益と比較衡量して降格措置が均等法9条3項の趣旨・目的に反しない特段の事情がある場合」は例外としました。
    5. 後者の最高裁のいう業務上の必要性と労働者の不利益との比較衡量は、以下の点がポイントです。
      • 労働者の有利・不利な影響の内容や程度
      • 労働者が降格措置による影響につき説明を受けて十分に理解した上で諾否を決めたか。
      • 労働者の配転後の業務の性質や内容、転換後の職場の組織、業務態勢、人員配置
      • 労働者の知識や経験
      • 労働者の意向
  2. 差戻審である広島高判平成27年11月17日は、特段の事情は認められないとして、労働者側勝訴の判決としています。
  3. コナミデジタルエンタテインメント事件判決(東京高判平成23年12月27日)
    産休・育休後の担当職種変更や役割等級制によるグレード引下げ、給与 減額が問題となった事例です。東京高裁は、グレード変更は違法であり、育休中の査定を成果報酬ゼロ査定とすることも無効と判断しました。ただし、成果給である以上は、具体的な成果報酬支払請求権までは発生しないとしました。
  4. 近畿大学事件(大阪地判平成31年4月24日)育児休業を取得した職員に対して昇給を不実施としたケースが問題とな りました。裁判所は、昇給の不実施は育児介護法10条で禁止される不利益取扱いに当たると判断しました。

6  育児休業ハラスメントか否かの判断のポイント!

  1. 育児介護休業に関する法的問題は、解雇や降格に関する問題が減少する一方で、業務量の軽減を理由とする給与減額、職務変更及び職位変更の違法性が争点となることが多いです。
  2. 労働契約において、賃金および労働時間は極めて重要な要素であるため、労働者側が同意する客観的状況の有無や、使用者が行った説明、合意に至るまでのやり取りについて具体的な事実の主張がポイントです。
  3. 労働者の同意がない場合は、秋北バス事件最高裁判決の法理により、社内規定を確認することになります。先に挙げた広島中央保険生協事件最高裁判決の観点から、業務上の必要性はあるのか、不利益の内容及び程度、労働者の飛天後の業務の性質や内容、転換後の職種の組織や業務態勢及び人員配置の状況、労働者の知識や経験などを整理して主張していくのがポイントとなります。労働者としては、降格された場合は、冷静に法的利益の比較衡量をする必要があるといえます。

7  今日、令和の時代に至り、典型的なマタニティ・ハラスメントといえる産休による差別取扱いはほとんどみられない一方で、育児休業による不利益取扱いが増えている傾向にあり、今後は、育児休業法上、父母1人ずつ取得することができることや、男性の育児休暇(4週間)の規定がため男性に対しても育児休業ハラスメントが行われる可能性が出てきているといえるでしょう。

育児介護休業は、働く親が子育てや介護をするための重要な制度です。しかし、その運用に問題や軋轢が生じる可能性は残されています。

労働者は、労働者の権利を理解し、尊重を求めることが大切です。お困り事がありましたら、名古屋駅ヒラソル法律事務所までお問い合わせください。

以上

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